セックスワークへのスティグマの強化にご注意を!
「デマに注意!」って標語みたいなタイトルになっちゃいました。
この記事を読んで、「sexwork=work」という軸について思いつつ、考えたことを書きました。
【重要;ハフポストUK版の記事=原文について】
上記にリンクを置いておりますハフポスト日本版の記事は、「ハフポストUK版の記事を翻訳」したものとされていますが、UK版の原文と照らし合わせますと、”ただの翻訳”という枠からは逸脱しているとも言える、小規模ではない編集が加えられているもののように見受けられます。
ですので、英語読める方・読めないけどチャレンジしてみようという方は、ぜひ原文にもあたってみて下さい。
本記事では以下より、ハフポスト日本版記事『新型コロナで、女性たちが望まぬセックスワークに追い込まれている【イギリス・調査】』について述べます。
この記事の主旨には賛成です
この記事の主旨は「国はこの問題を解決すべき」という点。困窮し、衣食住に困る人たちの生活保障は、国が責任を持って行うべしということです。
その点に関しては、完全に賛同します。
しかしこの記事の基本的なスタンスには、ちょっと「怖いな……」と思ってしまう部分が多くありました。
どこかどう怖いと思ったのかを、以下で記録しておこうと思います。
なぜ「セックスワーク」を特別視して取り上げるのか?
自ら望んで行っているのではない労働は、極論すれば全て悪だと、私は思っています。
この記事で書かれているのは、基本的に「セックスワークをしたいと望んでいるわけではないのに、せざるを得なくなった」人たちのこと。だからその人たちにとってこの状況が悪であり、脱出したい/すべき環境だろうことに反論はないのですが、一方でこの記事のスタンスは、残念ながらそうなってはいないように読めます。
この記事は、「セックスワークは搾取」であるという前提に立っている。もしくは、少なくとも、「セックスワークなんて”普通”は選ばないものだ」という前提に。そういう風に読めるのです。
たとえば
- 「食べ物や光熱費支払いのために初めて体を売ったシングルマザー」(シングルインカムで生存さえかかっているのでなければこんな仕事をするわけがない、という前提があるからこそ通じるはずの表現)
- 「住む場所に困ってセックスワークの広告を出した学生」(本来学生はセックスワークなんてするべきではないのに、住む場所に困っているからせざるを得なくなった、という前提がないと通じないはずの表現)
というような記述から。
これ、他の仕事だったらこんな書かれ方をしますかね。
シッターだったら? パンを売る仕事だったら? 株取引や医療事務、弁護士事務所の受付だったら?
これって、結構ストレートな職業差別ではないですかね……と思います。
スティグマの強化は、セックスワーク否定論者も積極的に避けるよう留意すべき。
こういうひとつひとつの、「セックスワークなんて”普通”選ばないよね」という視点の積み重ねとその受容は、セックスワーク/ワーカーに対して世界的に蔓延っているスティグマを強化します。
そしてスティグマの強化は、労働環境の悪化・地下化につながり、セックスワーカーのリスクの増大に寄与します。
そのとき、そのワーカーがどのような経緯や事情や意思や感情や考えにより、今セックスワークをしている/させられているのかは、関係ありません。
望んでやっているかどうかに関係なく、増大したリスクは、従事者をより困難な状況に追い込んでしまったりするんです。
セックスワークという労働行為の存在に否定的であったとしても、現状従事している人たちの身の安全を蔑ろにしたい、なんてことはないですよね?
だったら、どうか表現のいっこいっこに注意してほしい。センセーショナルだったり、「なんて酷い!」って読み手の感情を煽れる類の物語に回収できそうだったりで、たとえ自説の強化に都合が良さそうに思えても。
それは強い誘惑かもしれませんが、抗いましょう。
性労働市場に存在する搾取や暴力をなくそう、という点では、セックスワーク肯定/否定どちらの立場であろうと、手を取れるはずなんです。
なお私は、「本当に望んでついた仕事なのか」を常に問うべき、みたいなスタンス自体に反対です。
そもそも「本当に望んで行っている仕事なのか」を他の仕事と比較して有意に問われ、問われ続けるというのは、それだけで暴力的でしょ。
(だから、他の全ての職業においてもそれが問われる社会なのであれば、別にここまで反対はしません)
(それめちゃくちゃ鬱陶しいな、ほっといてよ、とも思いますが)
「本当はこんな仕事したくないに決まってる」って視線を絶えず向けられたり、どのような経緯でその仕事を選んだのかを常に問われたりするいわれなんて、どんな仕事しててもないんだよなーと思います。
”労働環境に問題がある”ことと”労働自体に問題がある”ことは、別の話。
労働環境の問題が告発されるのは、とても重要なことです。
が、セックスワークについて書かれると、なぜだか労働環境ではなく、その労働自体に問題があるように扱われることが多いです。
これって、なかなか他の職業にはないことですよね。
コロナ禍の中で問題点が多くいわれるようになった働き方といえば、ウーバーイーツが有名でしょうか。
補償のなさや危険の多さから、搾取的である点、配送員のはたらき方やはたらかされ方の問題としてしばしば語られています。
しかし、「本来であればこんな仕事をするはずもない人生なのに」「足を踏み入れてしまった」みたいな言い方だとか、この仕事に「追い込まれてしまう」だとか、そういう書かれ方はセックスワークほど多くは見かけません。
しない、とまでは言いませんが、そういった記述はとても慎重にされているように感じます。
ウーバーイーツでなくてもいいんですけど、他の個人事業の扱われ方と比較してみると、いろいろ「違うな?」となるのではと思います。
弁護士さんとか地元の八百屋さんとか自宅でネットショップやってる人とか漫画家さんとか芸能人とか。(これらの中には会社化とかしてる人たちもいるので、全員ではないですが)
どうですかね??
セックスワークでは「体を売って」は、いない。
私が今回挙げている記事、タイトルのすぐあとに、こういう記述があるんです。
「生きるために体を売らなければならなくなっている」と。
これ多分、めちゃくちゃ言われていることと思うのですが、セックスワークって、別に体は売ってないんですよ。
セックスワークで売っているのは、技術によるサービスです。
経験と技術と知識を駆使して、(全てではないが少なくない場合で)身体接触を伴うサービスを提供する仕事です。
というあたり、介護とか整体とか、つまり福祉とか医療系? とかと同じ類の仕事のはずなんです。
体を売るというのは、臓器とか血液とか卵子とかを売る行為を言うのであって、セックスワークは該当しません。
これについて「ただのものの例え、比喩表現なのに、いちいち突っかかるアンチフェミか」みたいに言われたことあったんですけど、この体を売るという表現”ただの比喩”で放っておけるほど呑気でいられる話ではないよなーと思っています。
だってセックスワークって、臓器売買と並べて「仕事にしてはいけない行為」みたいに言われること、あるじゃないですか。
比喩を比喩として受け取ってない人のせいで、不当に「仕事じゃない」扱いされるという実害が出ています。
”人身取引”となんて、ほとんど一緒くたに語られてることも多いですよ。
というかですね。セックスワークと「体を売る」こととは別物であって、そもそも比喩として成り立ってないんですよ。
誤解と無理解を拡散してしまうので、「体を売る」って表現、やめましょう。
でも、重要な指摘もありましたね。
記事中には、しかしセックスワーカーのリスク増大に歯止めをかけるためにも重要な指摘もありました。
ネット上で売春する若い女性や女の子たちが増加を懸念している。
ロックダウンで多くの公共スペースが閉鎖したため、女性たちの多くが自宅でセックスワークをしなければいけなくなっている。そこで身体的・性的な暴力のリスクが増加する可能性がある、と報告書は訴える。
というあたりの記述です。
(上段に誤字がありますが、記事より引用しており、こちら記事ママです)
ネット上での個人営業による”売春”や、自宅などよりプライベートな場でのセックスワークは、第三者が介在しない分、なにか身の危険があったときに咄嗟に助けを求めづらく、確かに危険の多いことと思います。
それはよろしくない。
コロナ禍で”自宅”以外の場所にいること・赴くことや、第三者との対面の機械自体を避けたい局面にあって、何を・どこまで・どう改善できるかはきっと難しいことかとは思いますが、どうにかリスクが減じられるよう、支援がありますようにと願います。
まとめ
セックスワーク/ワーカーへのスティグマの強化を避けつつ、搾取や暴力がなくなるように、安全に仕事ができるようにってスタンスが大事ですね。
そしてそもそも安心して生活が営めるように、政府は責任を持って支援をするべきと思います。
重要な追記;元記事とハフポスト日本版との差異について(20201211)
相互さんが元記事の動画部分を訳してくれて、それもガイドに、自分でも元記事を読んでみました。
元記事では本文前にまず、動画があります。
この動画はセックスワーカーと支援団体のコメントで構成されているものなのですが、その動画を観てからだと、記事の印象がかなり変わります。
動画では、セックスワークをする人たちがCOVID-19の影響下でどのような困難に直面しているか、セックスワーカーがよりリスクの低い状態で働くにはどのような環境が必要なのか、セックスワーカーへの”偏見”、スティグマがワーカーをどのように攻撃するか……というような内容が語られています。
にもかかわらず、ハフポスト日本版では、逆にスティグマを強化するような記事を作ってしまっている。
かなり恣意的に元記事から印象を変えているように感じました。
元記事と日本版記事とでのニュアンスの差
元記事では
- セックスワークは仕事である
- セックスワークで搾取含む危険に晒されることはあるが、それは許されないことであり、セックスワーカーには安全に働く権利がある
という前提が(動画の力もあり)共有されていますが、日本語版にはありません。
日本版が置いている前提は「セックスワーク=搾取」です。
元記事とニュアンスが全然違う。
元記事と日本版記事とでは構成すら違う
元記事の構成は
- COVID-19の影響でセックスワーカーはよりリスクある状態で仕事しなきゃならなくなってる、にもかかわらず
- 他に生計立てる手段がない、という理由でこの仕事を選ぶ人が増えている
- ので、リスクに晒される人が増えている
というものでしたが、日本版では1をまるまるカットしています。
そうすることで、「”セックスワークというリスクある行為”をせざるを得ない女性が増えている、セックスワークしなきゃならないなんて、大変な問題だ」という構成に塗り替えてしまっています。
これは印象操作というレベルでは??
ハフポスト日本版が行ったのは翻訳ではなく、編集です。
これを「翻訳」として発信すること、メディアとしての良識を疑っちゃいました。すごくしっかりして欲しい……。
おしまい。
同意します。
返信削除望まずに仕方なくその職業に就いている場合なんてセックスワーク以外でもいくらでもあるはずで、セックスワークだけが望んでなのか望まずなのか問われるのはおかしいと思います。
問題なのは働く人が守られる仕組みが出来ているかどうかで、自宅でセックスワークせざるを得ない環境というのは明らかに働く人が危険に晒される可能性が高いものでしょう。国に求めるべきは、生活に困らないようにお金を支給してということだけでなく、安全にセックスワークを行える法律を整えること、セックスワーク以外の仕事にも就きやすくすること(セックスワークもそれ以外も選べる用にする)、などだと思っています。
こんばんは〜コメントありがとうございます。
削除本当にそれ! です。
ただただ「仕事の一種」である、という認識が一般的になるといいなと思います。